ギリシャにある動物保護施設SCARSは、ある女性が自身のFacebookに投稿した野良猫の窮状を知り、保護しました。猫はFIVを患い、片目を失い尾や後ろ足にも症状を抱えていました。保護施設で療養を始めた猫は、同じ境遇の親友と出会い次第に回復し始めます。猫が選んだ自分の居場所は窓辺でした。
Facebookの投稿を見た女性はその翌日2017年2月1日、施設のボランティアにお願いしてアテネの南部で猫を保護しました。
女性が初めて猫と対面したのは駆けつけた動物病院でした。診療台の上に鎮静されて横たわっている猫は、治療のために毛を剃られているところでした。猫の右目は完全に光を失い、尾は砕け、左の後ろ足にも症状が及び骨折していました。猫は、FIV (猫免疫不全ウィルス感染症)に感染し免疫力の著しい低下により、全身のいたるところが病魔に蝕まれていました。
ひととおりの治療を終えた猫は、よろけながらも自分で立ち上がろうとしました。
女性は、治療の様子を施設のFacebookに投稿しました。すると、過酷な状況にあっても生き抜いていた猫が、必死に立ち上がろうとする姿に感動した人が『IRON SOUL (鉄のように強い魂)を持った猫だ』とコメントしました。女性は猫をアイアンと呼ぶことにしました。
アイアンは施設で暮らしながら治療が始まりました。FIVによって免疫力が低下しているアイアンは一切の手術を受けることができません。抗生物質の投与や食事療法を中心に治療が施されていました。人懐っこいアイアンは瞬く間に施設のスタッフの心を奪い、自分への注目をとても喜んでいるようでした。
保護施設に同じ病気で闘病中のパウダーがいました。スタッフはパウダーに新入りのアイアンを紹介しました。一般的にオス同士はあまりうまくいかないと言われていますが、2匹は違いました。アイアンはパウダーの横にぴったりと付き、頭を押し付けて甘え始めたのです。パウダーはそんなアイアンを受け入れ、2匹はいつも一緒に寄り添うようになりました。2匹の仲の良さはスタッフたちも、女性も驚くほどでした。
アイアンは日向ぼっこが大好きでした。それに気付いた女性は、施設の中でも特に日当たりのいいアイアンのお気に入りの場所にアイアン用の特等席を設けてあげました。すると、その場所にはいつもパウダーに抱かれるアイアンの姿が見られるようになりました。痩せて体の小さいアイアンがパウダーに抱かれている姿は、知らない人が見れば母猫に抱かれた子猫のように見えました
大好きな親友ができたアイアンは、治療の効果が出始め体重をかけることができなかった後ろ足が回復し、ジャンプができるようになりました。
アイアン自身が上ったキャットタワーの最上部から、女性を見下ろすアイアンに女性もスタッフもアイアンの明るい未来を夢見るようになっていました。
病気を治し、新しい家族のもとへ送り出せるかもしれない。アイアンに永遠の家を見つけられるかもしれない。女性たちはとても喜んでいたのです。
アイアンが施設で暮らし始めて2か月半が経とうとした頃、猫の繁殖期を迎えた施設には子猫たちがいつも以上に保護されスタッフたちは大忙しでした。
そして、スタッフたちはアイアンの異変に戸惑っていました。もともと痩せて小さかったアイアンでしたが、その頃になると少しずつさらに身体が小さくなり、きれいに輝き始めていたグレイの被毛が抜け落ちてきたのです。
アイアンはお気に入りの窓辺にひとりでいるか、パウダーといるかどちらかでした。つい最近までパウダーの後を追って歩き回っていたアイアンは、窓辺からほとんど動かなくなっていました。部屋の中の人の出入りにも興味を示さなくなり、彼はじっと、日差しの中で遠くを見つめていました。順調に回復していたアイアンにいったい何が起きているのか・・・
4月25日、女性はアイアンに会いに来ていました。いつもなら女性に摺り寄り甘えてくるアイアンでしたが、その日のアイアンは窓辺から動こうとしませんでした。日差しの中で窓の外をじっと見ています。女性は、いつものようにアイアンをハグしたいと思いましたが、それはアイアンの邪魔になると思い、我慢して一緒に過ごしました。
次の日、朝日の中のアイアンは2度と目を覚ますことはありませんでした。
アイアンの死は女性を始めスタッフに大きな衝撃を与え、彼女たちはアイアンの死についてずいぶん考えました。
アイアンはパウダーと一緒に窓辺で過ごす時間を愛していました。彼女たちはアイアンにとって新しい家で幸せになることより、施設でパウダーと過ごす方が幸せだったのだと気付いたのです。
女性はアイアンが自分の尊厳を守り抜いていったのだと思いました。アイアンは女性にとっても、スタッフにとっても忘れることのできない猫になりました。
残されたパウダーは2か月余りの日々を孤独に過ごし、心配したスタッフたちはアイアンと過ごした窓辺のある部屋をパウダーのために使いました。7月、失意のパウダーは病気の完治を待たず、望まれてドイツの新しい家に旅立っていきました。新しい家には、皮膚がんで耳を失った後に親友となる猫が待っていました。ドイツで暮らすパウダーには笑顔が戻っていました。
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